猫と人。繋がるものがたり ネコット

ライター 2023.07.07 猫とフリーランス。

猫を家族に迎えて半年ほどのフリーライター・カナさんの日常を取材させてもらいました。 ひとりといっぴきの日々を、カナさんの視点で語ります。
取材:ささきりょーこ

猫の家づくり。

東京都、世田谷区。
立ち並ぶ店も行き交う人も、落ち着いた空気感が魅力の街。新旧のデパートや商業施設のある駅前からバスに乗って約10分。閑静な住宅地でバスを降りて数分歩くと、私が住む家が見えてきます。
私の仕事はフリーランスのライター。媒体やクライアントの要望に沿って取材に出かけ、書籍や雑誌・ウェブメディアの記事を執筆する毎日です。
2023年1月。生後2ヶ月を過ぎたベンガルの赤ちゃんを家族にお迎えしました。

なめらかなアイボリーの毛並みに、濃淡ある黒色スポットとストライプの組み合わせが、小さなヒョウのようにもトラのようにも見える、ちょっとハンサムな子猫です。2ヶ月前、信頼しているブリーダーさんから、「ベンガルの赤ちゃんが産まれました」と連絡を受けてからずっと、この日を待ち侘びていました。人懐こくて、愛らしくて、ちょっと大げさに言うと、「あ、私、この子に出会うために生まれてきた」みたいな気持ちにさせる子猫です。

『よろしくね。ぼくのこと、かわいがってね』

わが家の一員になったこの子に、「テオ」と名付けました。ギリシャ神話に出てくる「テオドロス」は、「神さまの贈り物」という意味。
テオ、よろしく。テオのこと、大切にするからね。
ベンガル種を好きになったのは、去年、ペットショップで思いがけず出会ったことがきっかけでした。もふもふのちっちゃな猫ちゃんが、モジモジ動いたりぴょこぴょこ跳ねたり。
か、か、か、かわゆい。
私があまりにもじーっとケージにへばりついて見ていたからか、店員さんが、「抱っこしますか?」と声をかけてくれました。じゃあ抱っこだけ、と店員さんからそっと受け取った赤ちゃん猫は、ふわっふわ。ほんのり体温が伝わって、あたたかい。
これはヤバイ。
連れて帰りたい。
いや、ダメに決まってる。
うち、賃貸だし。
壁紙にガリガリされちゃうもん。
そんな心の葛藤を見透かしたのか、店員さんは「きちんとしつけたら、決まった場所でしか爪とぎしないんですよ」と教えてくれました。セールストークだとはわかっているけれど、その一言がきっかけで、飼うためにはどうすればいいか、真剣に考え始めました。去年、階段のあるメゾネットタイプの新居に引っ越しをしていたことも、猫と暮らすにはちょうどいい間取りだなと思い、後押しになりました。いろいろ調べていくと、環境さえ整えておけばアパートや一人暮らしでも、うまく飼うことができるとわかってきました。たとえば、よく猫は家のあちこちで爪を研ぐから、家具や建具がボロボロにされると思っている人は多い。だけど、きちんと爪を研ぐ専用の場所を作ってあげれば、わざわざ家具で爪を研いだりしないのです。 そんなふうに、猫と私のライフスタイルに合わせたグッズをいろいろ揃えていきました。爪研ぎ付きのキャットタワーや自動給餌機、ホットカーペット、ドーム型のキャットハウスなんかを。

それまで仕事場にしていた1階の部屋は、もうほとんどお猫さま専用に様変わり。 実のところ、私自身が引っ越しを決めた理由は、新型コロナの流行が原因です。近所のカフェやレストランが全て休業してしまい、朝から晩まで1LDKの同じ部屋で過ごす毎日。視界に映る景色の変化の無さに、うんざりして、ストレスはピーク。頭がおかしくなりそうでした。自分を取り巻く環境の大切さを身をもって知ったからこそ、家族になる猫にとっても、ストレスなく過ごせるように、住まいを整えてあげたいなと思ったのです。

テオという猫。

一緒に生活をはじめてしばらくすると、テオの性格がわかってきます。テオはめちゃくちゃ「かまってちゃん」。私が執筆作業に集中してパソコンに向かっていると、膝に乗ってきたりデスクに登ってキーボードを叩いてくるのはしょっちゅう。

『カナちゃんカナちゃん、あそぼうよ』

集中モードの私が、かまわず仕事を続けていると、部屋の外に出ていくテオ。
遊んでもらうのを諦めたのかな、なんて思っていたら、上のフロアからニャアニャアが聞こえる。姿が見えないところで鳴かれるとさすがに気になって、部屋からひょこっと顔を出して階段をのぞいてみます。すると階段の上から、私が出てくるのを待っているテオと目が合います。

『ねえねえ、ぼく、ここだよ!』

この「かまって作戦」はいつだって成功。仕方がないから、少し遊んであげちゃうんです。 原稿、あるんだけどなあ。別のフロアに行けば、かまってもらえるって、いったいどこで覚えたのかしら。

甘え上手なテオの影響か、ふと気がつくと、テオのこと考えていたりする時間が増えました。 たとえば外出先でも、今ごろどうしてるかな、元気にしてるかな、みたいに。帰宅したら、まずテオのいる部屋を覗くようにもなりました。テオはいつも、お腹を見せるポーズをとって挨拶してくれます。

『カナちゃん、おかえり!さびしかったー』

さっきまでひとりでのびのび遊んでたの、見守りカメラで見て知ってるんですけどね。でもやっぱり、仕事で疲れて帰ってきたときに、待っていてくれる存在ってありがたい。 テオは、ほかの人に対しても警戒せず、すぐに懐きます。キミ、そんなに油断してると、いつか誘拐されちゃうぞ、と思うほど。

それでも遊びに来た友人が、テオを可愛がってくれると素直に嬉しくて、そうでしょ、うちの子、可愛いでしょ、って思っちゃう。 親バカかも(笑)。でも、ま、決して同じにはできないと思うけど、この気持ちって、子どもを持つ親に近い気がするんだよなあ。

好奇心の赴くままに行動する無邪気なテオは、変なモノをおもちゃにすることもあります。 この間は、たまたま落とした化粧品のキャップが転がるのをひたすら追いかけて遊んでいました。

仕事の邪魔をしたり、トイレットペーパーをおもちゃにしたり。困った行動も多少あるけれど、テオと暮らしはじめて変わったことは、ものすごーく癒されるってこと。
ライターのお仕事の中で、執筆をしている自分を孤独に感じることがあります。文章を書くということは、原稿に向き合いながらも自分と向き合う行為だからです。だけどそんなとき、ふと足元を見るとテオがいてくれたりする。その温もりが、緊張した心をふっとゆるめてくれる。 たとえばそれが、寒い冬のまだ陽が登るより前の時間だったりすると、なおさらじんわりくるのです。ひとりきりで闘っているわけじゃない。テオがいてくれる。ごはんの時間じゃなくても、遊んでいなくても、そばにいたいと思ってくれていることが、すごくうれしい。

だから、今日もお仕事がんばろうって思います。

『カナちゃんは、いっぱい忙しい人だけど、あんまりがんばりすぎないで、ちゃんとぼくと遊んでよね』

インタビューイー
カナさん
東京在住、フリーランスライター歴7年。
主に企業経営者や管理職のインタビュー記事、書籍のライティングを行う。 ライター業以外に個人書店、日本酒キッチンカーの運営などアクティブで多忙な日々を過ごす。一緒にいると誰もがほっとするような雰囲気を持つ。

取材:ささきりょーこ/執筆:ささきりょーこ/撮影:ささきりょーこ/写真提供:カナさん

ささきりょーこ

1989年、神奈川県横浜市生まれ。
経理・総務などのバックオフィスを経て、
現在は、広告制作会社のプロデューサー
とフリーライターでキャリアをパラレルに展開中。
持ち前のフットワークの軽さとコミュ力で
気になった人を初対面でも飲みに誘う。
家系的猫好き。好きな猫種はロシアンブルー。
好きな児童書は『黒ねこサンゴロウ』シリーズ。

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