猫と人。繋がるものがたり ネコット

アーティスト 2023.05.12 温かさと強さを持つ真理江ワールドの秘密

小林真理江さんの猫の絵は、何とも言えないユニークさと色彩が放つ力強さがあるのです。
たまたま、友人を通して真理江さんの絵を知っていた私は、吉祥寺で個展があることを知り、実際に絵を見てみたいと強い衝動に駆られ出かけてみたのです。
その時はゆっくり話ができなかったのですが、どうしてももっと見たい。
お話しを聞きたい。そう思い、改めて時間をとってもらう約束だけを取り交わし、その日は帰ってきました。
そして、1か月後、真理江さんと会うことができました。
猫の絵の魅力を紐解くことができました。どうしてこんなに私の心を引き付けるのか…真理江さんのお話から、アーティストの原点と言える猫との深い絆があったことを知るのです。

出会いは、真理江さん8歳、みいちゃん1歳(多分)の夏休み

今でもはっきり覚えています。
夏休みにTVを見ていたら、どこからか「ニャー」って呼ぶ声がして。
私、その声に応えて「ニャー」って返事したら、また「ニャー」って聞こえた。
思わず声が聞こえた窓の方を向くと、子猫が窓から私を見ていたのです。

凄く可愛くて、思わず食べ物を上げたらむしゃむしゃ食べてる。
お母さんに「うちで飼ってもいい?」と聞くと、
「ダメダメ、うちでは飼えないわよ」って言われてしまった。
仕方なく、家には入れてあげられなくて、その時はそれきりになってしまったの。
そして数日後、家族旅行から戻ってみると、近所の子供が
「この猫、ここの家の猫でしょ?」って、連れてきてくれました。
なぜそう思ったのかな…いまだにそのことが不思議に思えてならない。
だって、1回だけだったのに…私たちが留守の間、ずっとうちの庭にいたのかな…

それから、母も仕方なく飼うことを黙認してくれて、我が家ではそれ以来その猫を〝みぃちゃん〟って呼ぶことになりました。
あれだけ反対していた母だけれど、家をリフォームする時には、みぃちゃんが出入りできる猫窓まで作って、病気になった時は一番面倒を見てくれました。

みぃちゃんは私が高校を卒業して東京の美大に入るまで、一緒に暮らしていました。
みぃちゃんが私に残してくれたことはたくさんあります。
私が中学生の頃だったか
温かで陽が心地よい日には、母は必ずお布団を干していました。干したふかふかなお布団を南向きの2階の部屋一時に一時的に置いていると、みぃちゃんが必ずそのお布団見つけて、そのお布団に顔をすりすりして、幸せそうに眠り始めます。
私は、そのみぃちゃんの隣で、みぃちゃんの寝息とそれに合わせて膨らむお腹に顔をくっつけるのが大好きでした。お陽様の匂いとみぃちゃんの匂い、みいちゃんの鼓動が混ざって、言葉にできない感情でした。
温かく、優しくて、何かがあったわけでもないのに、その温かさに涙が出そうになったこともありました。
なぜ?
この安らかで優しい気持ちは何なのだろう…今でも忘れない。 こんな気持ちを絵にできたらいいなぁと。
そのころから絵を描くことは大好きだったけれど、とてもうまく描ける自信がありませんでした。
中学生の私は「いつか絵がうまくなったら、みぃちゃんを描く!」って、思っていました。
それが私の心の中の原風景かもしれませんね。

「いつもの場所で」

この「いつもの場所で」みぃちゃんとの原風景がモチーフになっています。

猫の魅力は相反する二面性にある!?

猫の魅力はそういう優しさだけじゃないですよね。
お腹が空いた時、眠い時、まるで人間の子供のようにすり寄ってくる。
この絵のようにね

おねだり

期待でいっぱいの顔で襲い掛かってくる感じ笑

可愛いですよね
それなのに、私はネコの反対側の顔を見てしまったのです。
それは、たまたま通りかかった道でのことです。
みぃちゃんが近所の猫と喧嘩しているではありませんか。
凄い唸り声をあげて相手の猫を威嚇してます。
もちろん、それは当たり前の事。喧嘩ですからね。
その時、私は思わず
「みぃちゃん!」って声を掛けたのです。
そしたら、なんという事でしょう!
「みゃー~」と、どこから声を出しているの?と思うくらい甘えた声で私に近づいてくるのですよ。
えッ!?
猫ってそういう動物なの?
子供心に猫の二面性を刻んだものでした。

たくらみ

猫のしたたかさが何とも言えなく優雅さにも思える。
それも猫の魅力ですね。
思春期の私にたくさん気づかせてくれた。
心から許し合える初めての生き物が、たまたま猫だったのだけれど、その猫が死を迎えるということも衝撃的でした。
命と言うのは限りがあること。
猫なりの生き様に慰められたり癒されたり驚かされたり…
みぃちゃんとは10年ちょっとの付き合いだったけれど、私はみぃちゃんと出会っていたから、アーティストになったのだと思えるようになりました。
この私の感覚はきっとみぃちゃんが育ててくれたのかもしれませんね。

アーティスト小林真理江のこと

小林真理江  茨城県水戸市出身
2006年多摩美術大学美術学部絵画学科油絵専攻卒業
2010年東京芸術大学大学院修士課程壁画研究室修了

ガラスとの出会い

ガラスの魅力に初めて心を奪われたのは、ガラスの白鳥でした。
幼い頃に家族旅行で訪れた『箱根彫刻の森美術館』で買ってもらったものです。
毎日のように、ガラスが光を通す美しさとそこに生まれる鮮やかな色、滑らかなフォルムを一日ウットリと眺めていたものです。
この感動が今の私の仕事に繋がっているのだと思います。

女神像との出会い

大学は油絵を専攻していたのですが、20代前半は何を描くべきか茫洋とし、自分に失望していました。
そんな頃に行ったイタリアでの体験が今も心の支えです。
ローマ郊外の遺跡。彫刻も風化していましたが、叢の奥に顔の残っている女神像がありました。私は女神像と見つめ合いました。像の足元に摘んだ花が添えてありました。
何時間前なのか、私と同じように立ち止まった誰かがいた。
そして紀元前の昔から、この像と見つめ合っていた人々を想いました。
永い時間の中の自分の小ささと、無数の小さな命の存在を感じ、いてもいいよと言われている様でほっとしたのでした。
そんな経験を作品にしたい、いつか誰かのそんな作品になりたい、私が作品を作る目的を見つけた旅でした。

私の活動

2010年に大学院を修了してから、アクリル絵画と、ガラスモザイク作品を制作し、百貨店やギャラリーで展示販売をする仕事を続けてきました。
大学院の修了制作で作ったモザイクオブジェ作品をきっかけに、パブリックアートを制作する活動も同時に行っています。
パブリックアートでは、観る楽しさに加えて、座れたり、遊べたり、作品と触れ合いながら楽しめる要素を大事に制作しています。
いつか美しくて楽しい公園や庭が作れたら、と思っています。

子供との暮らしで見つけた季節の色と世界感

娘が産まれてから、アトリエに引きこもっていた暮らしが一変しました。
赤ちゃんの頃は特に、寝かせたりあやしたりするために、日中のほとんどを散歩に費やしていました。
アトリエを確保する為に、東京でも田畑や森のある地域に暮らしているのですが、散歩する場所が沢山あったことで、この土地に暮らしていて良かったと改めて思いました。
歩くようになれば休みの日もあちこちの公園に出掛けて、コロナで保育園に行けなくなった時も、毎日人の少ない広い森林公園で遊びました。
人生でこれほどまでに四季を感じたことはあっただろうか、というほど、森の色が、空の色が、夕焼けの雲の形が、毎日違うのを見ながら暮らすようになりました。その経験から、私の絵に「季節」が自然と登場するようになったのは大きな変化でした。

小林真理江アルバム

出会い
温もり
猫マトリョーシカ
黒橋猫モザイク
橋猫

取材 土屋和子/執筆 土屋和子 /写真提供 小林真理江

小林真理江

アーティスト

茨城県水戸市出身
2006年多摩美術大学美術学部絵画学科油絵専攻卒業
2010年東京芸術大学大学院修士課程壁画研究室修了

土屋和子

「猫と人。繋がる物語」編集長。

元月刊パリッシュ代表&編集長。62歳までは経営者。その後はフリーランスとして現在は事業プロデユース・執筆・プロモーション制作(パンフレット・HP)等を手掛ける。フリーランスの仲間たちを繋ぐサイト「ツキヒヨリ」https://tuki-hiyori.com/を運営。
都心で黒猫シャロンと暮らしている。

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