猫と人。繋がるものがたり ネコット

フリーランス 2023.09.25 ミミちゃんと私

「ねぇ、ともちゃん。今日、一緒に駄菓子屋行かない?めぐちゃんとななちゃんも誘ってるの」
「ううん、私はいいや。家にミミちゃんがいるから」
「いいなー。私も猫ちゃん飼いたい。お母さんに相談してみようかな。あっ、またミミちゃんの写真見せてね」
「うん、いいよ!」
「じゃあ、駄菓子屋はまた今度ね。ばいばーい」
「ばいばーい」

えなちゃんからの誘いを断ると、ひとりで家まで帰る。
家に帰れば、ミミちゃんがいる。
そう思うと、ついつい駆け足になってしまう。
玄関の鍵を開けると、そこにはミミちゃんがいた。
ミミちゃんはいつもこうやって私が帰ってくるのを待っていてくれる。

「ただいま、ミミちゃん」
「にゃー」

玄関で靴も脱がずに、その場でミミちゃんを撫でる。
ミミちゃんは甘えん坊で、こうやって撫でられるのが大好き。
玄関に私以外の靴はないから、まだお姉ちゃんは帰ってきていないみたい。
お母さんとお父さんはいつも通り仕事に行っていて、帰ってくるのは夕方か夜になる。
ミミちゃんを抱き上げると、そのまま自分の部屋に向かった。
ランドセルを椅子の上に置いて、ベッドに腰かけると膝の上にミミちゃんを乗せる。
ミミちゃんはゴロゴロとのどを鳴らしながら、私のお腹を頭でぐりぐりしてくる。

「ふふふっ、くすぐったいよ」

ミミちゃんの頭やお腹を撫でながら、私は今日学校であったことを話す。

「今日の給食はから揚げだったんだよ。私、給食のから揚げ大好き。何個か余るとじゃんけんになるんだけどね、なんとなく恥ずかしくてじゃんけんに入れないの。今日も本当はもっと食べたかったんだけどなー」
「にゃー」
「ミミちゃんはから揚げ食べちゃダメだもんね。でも、学校のから揚げって本当においしんだよ。給食が終わって、昼休みはえなちゃんたちとずっと絵を描いてたの。あっ、そうだ。今度、授業で絵を描かなきゃいけないんだけど、私、ミミちゃんを描こうと思うんだ。いいよね?」
「にゃー」
「うふふっ、ありがとう」

ミミちゃんに話を聞いてもらっていると、玄関のほうから音がした。
たぶんお姉ちゃんが帰ってきたんだ。
足音が近付いてきて、私の部屋のドアが開いた。

「ああ、またミミと一緒なのね」
「お、おかえりなさい……」

お姉ちゃんはむすっとした顔で少し乱暴にドアを閉めた。
最近、お姉ちゃんはずっと機嫌が悪いし、少し意地悪。
だから、学校から帰ってきてからはできるだけ自分の部屋に閉じこもるようにしている。
お母さんとお父さんも喧嘩ばかりだし、今の家の中で私と仲良くしてくれるのはミミちゃんだけ。

ある日のこと。
その日はお母さんもお父さんも仕事が休みで、お姉ちゃんも予定がなく、家族全員が家にいた。
お姉ちゃんとお母さんはテレビを見ていて、お父さんはテーブルのところで新聞を読んでいる。
私はミミちゃんと一緒に遊んでいたんだけど、ミミちゃんがふと台所のほうに行ってしまった。
早くミミちゃんが戻ってこないかなと思っていると、台所のほうから何かが割れる音がした。
慌てて見に行くとミミちゃんはカウンターの上にいて、ミミちゃんの見下ろす先ではお父さんのお茶碗が割れていた。
しかも、これはお父さんのお気に入りのお茶碗。
たぶんミミちゃんがカウンターに上がったとき、体が当たったんだ。
すぐにお母さんがやってきて、「ああ、割れちゃったのね。危ないからともかは離れてなさい」と片付けを始める。
私はミミちゃんが怒られるといけないからと、すぐにミミちゃんを抱きかかえて自分の部屋に入った。
しばらくすると自分のお気に入りのお茶碗が割れていることに気付いたお父さんの声が聞こえてきた。

「これ、俺のお気に入りじゃないか!」
「あらそう。その割には片付けておいてって言ったのに、そのままにしてたのね。こんなところに置いてたら、そりゃあちょっと当たっただけでも落ちるわよ。ミミだって悪気があったわけじゃないんだから仕方ないでしょう」
「何だよ、その言い方は」
「だって自業自得じゃないの。そもそも……」

いつものように、お母さんとお父さんの喧嘩が始まった。
結局、その日はお母さんもお父さんも機嫌が悪いまんまで、お姉ちゃんも相変わらずむすっとしていた。
せっかく家族でご飯を食べても、全然楽しくないし、おいしくない。
だから余計にミミちゃんとの時間が大切に思える。

でも、それからしばらく経って、ミミちゃんがいなくなってしまった。
学校から帰ると、いつも出迎えてくれるはずのミミちゃんがいない。
家の中を探し回っても、家の周りを探しても見つからない。
夕方になって帰ってきたお母さんに「ミミちゃんがいない!」と言うと、お母さんは困った顔をした。
「今朝ね、ミミがお父さんの湯呑を割っちゃったのよ。お父さんが『またミミか!』って怒っちゃってね。ミミがびっくりして、窓から逃げちゃったのよ。すぐに戻ってくると思ったんだけど、まだ戻ってないの?」
「家の中にも、家の周りにもいなかったよ。どうしよう……」
「しばらく探してみて、見つからなかったら届けを出しましょう。大丈夫よ。前にもふらっといなくなって、すぐに帰ってきたことがあったじゃない」

「うん……」

それから毎日毎日、私はミミちゃんを探した。
学校から帰ってきても、ミミちゃんがいない。
それだけで本当につらかった。
「1週間経ったら届けを出しましょう」とお母さんが言って、もう5日が経っていた。
学校から帰るとすぐにミミちゃんが帰ってきていないか家の中を探し回って、それから家の周りを探す。
今日は少しだけ遠くまで探しに行こうと、川の近くまでやってきた。
すると、遠くから猫の鳴き声が聞こえた気がした。

「ミミちゃん!」

大きな声で呼んでみると、今度はさっきよりもはっきりと鳴き声が聞こえた。
「ミミちゃん」と呼びかけながら、鳴き声が聞こえるほうへと進んでいく。
鳴き声が大きくなってきたなと思ったとき、川沿いの土管の中にキラっと光る目が見えた。

「見つけた!」

土管の中にいたのはやっぱりミミちゃん。
泥だらけになるのもかまわずに、私は土管の中に入ってミミちゃんを抱き寄せた。


「よかった~……ミミちゃんがいなくて、寂しかったんだよ。お父さんに怒られそうになったら私が守ってあげるから、一緒に帰ろう」
「にゃー」
「あはは、私たち泥だらけだね」


私もミミちゃんも本当に泥だらけ。
思ったよりも遅くなっちゃったし、家に帰ったらやっぱり怒られるんだろうな。
そんなことを考えながら家に帰ると、家の前でお母さんとお父さん、それにお姉ちゃんが私を探していた。
私を見つけるとすぐに駆け寄ってきて、「どこ行ってたの!」「心配してたんだぞ!」「心配させないでよね!」と口々に言う。
私も思わず言い返してしまった。

「私にはミミちゃんしかいないの!お母さんとお父さんはずっと喧嘩ばっかりだし、お姉ちゃんはずっと機嫌が悪いし!だから、ミミちゃんを探してきたの!家の中で仲良くしてくれるのはミミちゃんだけなの!」

思っていたことを言葉にすると、ポロポロと涙が出てくる。
すると、お姉ちゃんも泣き出してしまった。

「ごめんね。私も本当はミミと仲良くしたいのに、ミミがともかにばっかり懐くから悔しくて……」

お母さんとお父さんも顔を見合わせる。

「確かに最近は喧嘩ばっかりだったわね……ごめんなさい」
「ともか、ごめんな。ミミもごめん」

その日から、私は部屋に閉じこもることはなくなった。
相変わらずミミちゃんが一番の仲良しだけど、お姉ちゃんも前の優しいお姉ちゃんに戻ったし、お母さんとお父さんの喧嘩も少なくなった。
「もう家出しちゃダメだよ」と言うと、ミミちゃんは「にゃー」と返事をした。

執筆:妖精社

妖精社(ペンネーム) 

フリーランスのライター。大学で心理学を専攻し、卒業後には心理カウンセラーとして活動。気付けば副業でやっていたライターが本業に。現在は個人のご相談から企業案件まで幅広く執筆。最近は絵本のシナリオや小説、書籍に関する依頼も急増中。ちんまりとした可愛いもの、もふもふしたものが好きです。

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