猫と人。繋がるものがたり ネコット

主婦 2023.09.25 のらねこ〝にゃあ〟の物語

私たち夫婦が新婚時代に出会った〝にゃあ〟のお話です。

新婚間もない私たちは、夫の実家から2軒隣りのアパートに住んでいました。
アパートの前には駐車場と、色とりどりの季節の花が植わった花壇がありました。
ある日駐車場に出ると小さなか細い声で 

「にゃぁ」
「にゃぁあ」
って赤ちゃん猫の声がするんです。声の主は花壇の中から聞こえていました。駆け寄って手を差し出したら、自分より大きな人間がいきなり来たから、それはそれは怖かったのね。
葉っぱの下に身を隠して、警戒してたっけ。そして全身全霊で「シャァアアアア!」って威嚇してきました。

花壇の茂みに隠れてい「にゃあ」と鳴く猫。

だからその日は声掛けでおわり。
次の日も気になっちゃって、朝も昼も夜も声を掛けてみたけれど、まだ威嚇するから
「じゃあね、またね」って帰ってた。
発見から三日目。
近寄っても威嚇がなくなったことに気づく。
おっ、これはいいぞ。やっと餌をあげられる。

実は妊婦だった私、大きくなったおなかを抱えてダッシュで家に戻ると、すぐさま食パンとお水を掴んで花壇のにゃあのところへ向かった。
ちーさく、こまーかく、ちぎった食パンを一生懸命食べてくれた。


「あーよかったね。これで生き延びれるよ」

その日からその猫をにゃあと呼ぶことにしました。

うちの夫は身体も大きいけれど、心も大きくて優しい人で、動物も大好き。
仕事を終えて帰宅した夫に、にゃあの話をしてみたら、嬉しそうに話を聞いて

「ちょっと心配だからにゃあを見にいこう」って、
夜なのににゃあを探しに行ったりして。
そしてその夜、うちの夫もにゃあの友達になりました。

本当は連れて帰りたかったけれど、うちのアパートはペット不可。
もどかしいけれどこればかりはどうしようもない。
それからというもの、1日3回の食事をにゃあに届けていた私。
それが、一週間ほど経った頃、一階に住んでいた私たちのアパートのベランダに、にゃあは恐る恐る入ってきたんです。


これには驚いた。
にゃあ、どうしてここがわかったの?」
他にも家があるのに不思議だった。
声をたどってきたの?それとも匂い?とってもうれしくて、その日からにゃあは我が家の家族になってしまった。

可愛くて、とても人懐っこい子だったので、私たちはにゃあのために、居心地のいい場所を作ってあげようと、まずはお家を作りました。
段ボールだけどごめんね。でもふかふかのタオルを奮発したからね。ここで寝るんだよ。

夜になるとちゃんとにゃあはそこへ帰ってきて、ぐっすり寝ています。
その姿が愛おしくて、夫とニタニタしながら眺めるのがなんともいえず平和で幸せでした。

朝6時30分、昼12時、夜7時。
にゃあの腹時計にはピタリ賞をあげたいくらい。
ベランダで
「おなかすいたよー!」
「ご飯の時間にしてよ!」って、
時間になると鳴くし、日曜日でもお構いなし。
ペット不可のアパートでは隠すのが大変大変。
一度大家さんに「最近猫がよく鳴くよね」って言われたけど「そうですか?」ってしらばっくれて、もうハラハラ。

よく食べたよね

そんな日々が続きながらも、私たち夫婦2人と1匹は楽しい毎日を過ごしていました。
するとある日、夫がこんなことを言うのです。
「実はさ、朝、出勤するとき、にゃあが俺と一緒についてくるんだよ」
「帰りは時間になると出入口で座って待ってるんだ。それで俺が、にゃあ行こうっていうと一緒にアパートまで歩いてくれるんだ」
夫は2軒隣りの実家で仕事をしていますが、なんとその行き帰りをにゃあと一緒にしてるんだと言うのです。
最初はたまたまかと思ったけれど、もう4日連続で続いていて、わかっててやってるのは間違いないって。
なんて賢い律儀な子なのか・・いい子だー。
そんな幸せな日々が2ヶ月ほど続いて、いよいよ私のお腹も限界を迎えてきました。
来た。
陣痛。

朝方「おしるし」が来たので慌てて身支度をして。
にゃあの朝ご飯をベランダに出して。

夫に似た大きな息子は簡単には出て来てくれず、大難産のお産を終えて、晴れてパパとママになってホッとした日を迎えたのが、2019年11月2日。
我が家に待望の長男が誕生した。
そこから一週間の入院生活。出てくる病院食には必ず牛乳が1パックついてきました。
毎晩面会に来てくれる新米パパに
「これもってって、にゃあにあげてくれる?あの子牛乳が大好きだから」
「あぁ、わかった。帰ったらすぐにあげるね」
「今日もにゃあは元気で一緒にお散歩したよ」
とパパは色々と近況を話してくれました。
その次の日も、その次の日もパパは快くにゃあに牛乳を届けて、にゃあの話をしてくれて。
でもその次の日から近況報告はなく。
にゃあ元気?」
「うん」
「これ持って行ってあげて」
「オッケー、牛乳、あげとくね」
の一言で話題は変わっていた。

無事に退院し、いよいよ息子とにゃあのご対面だ。
猫アレルギーがありませんように。にゃあも息子を可愛がってくれますように。
はやる気持ちでアパートに戻り、真っ先にベランダを見た。
あれ?餌受けがない。
にゃあの段ボールハウスがない。

お気に入りの猫じゃらしがない。

「にゃあ」一緒によく遊んだね
「あれ?どうした?」
パパが小さく答えた。
「にゃあ。死んじゃったんだ」
「車にひかれちゃった。うちの前の道路で。きっとうちに帰ってくる時だったと思う」
「でも、産後の結衣には言えなかった。ごめん。牛乳、冷蔵庫に貯めといたけど、昨日まとめて捨てた」
とてつもなく悲しかった。生まれた息子をにゃあに見せたかったのに、いないなんて信じられない。寂しさがいっぺんに押し寄せてきた。

でも、パパが
「結衣がいない間、俺が寂しくないようにずっと一緒にいてくれたんだと思う」
にゃあの人生は短かったけど、俺たちと出会って、沢山の愛情を貰えたのは野良猫でも幸せだった思うよ」

その一言に救われた。
思い出は確かに短かったけど、でもとっても濃かった。
そして我が家の長男は猫が大好き。にゃあも息子の事を見守っていてくれてる気がします。

ふと今気づいたけど、にゃあとの出会いは9月。
これを書いてるのも9月。
きっとにゃあが、思い出してねって言ってるのかもしれないなぁ。

インタビューイー:結衣さん/取材執筆 : MIE

MIE

山梨県生まれ。1993年より東京都八王子市にて巷の花屋『多摩花賣所』を23年間経営。雑誌などにコラムを連載する。現在は花教室を主宰する傍ら、花と植物と猫のいる暮らしから、幸せと癒しを届けます。

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