猫と人。繋がるものがたり ネコット

ライター 2023.07.06 猫と庭

一日のうちでなんといっても朝が一番好きです。
例えば庭の猫たちに気づかれないようにカーテンの影からそっと外を覗くと、中央のアイビーの緑が朝日を浴びてつやつやと輝いている。
見渡すとワゴンの上に一匹、ベッドの代わりに作ってあげた箱の中に二匹、猫たちが横たわって眠ったふりをしているんです。

カーテンを開けると猫たちは敏感に察知して、ごはんの時間だと思ってものすごい勢いで「ミャーミャー」始まります。

窓ガラスを肉球でぽこぽこ叩いたり身体をすりすりしたり、おねだり攻撃です。
だけど朝10時くらいまではおあずけにしておかないと、一日のごはんの量が多すぎてしまうので少しの間ガマンしてもらいます。

以前はこの子たちのお母さん猫をよく可愛がっていました。『チビ』と呼んでいて、忘れられない猫です。私もほかの猫たちもチビの虜でした。
チビを見かけるようになったのは2019年の秋でした。
もともと住宅街で、一戸建てが立ち並ぶこのエリアには庭がある家が多く、幹線道路からも少し距離があります。
きっとそういった環境が猫には暮らしやすいのでしょう。私が生まれ育ったこの家では昔から日常的に庭で猫を見かけていました。

私は子どもの頃から動物全般が好きでしたが、私の母は動物があまり得意ではありませんでした。
けれど不思議と猫だけは大好きで、父も生前は庭にやってきた猫のためにキャットフードを用意していたほどでした。聞くところによると両親の親たちも猫は特別可愛がっていたらしく、今では生粋の猫好き家系だったのだなと思っています。

私が結婚して家を出てからも、息子が1歳くらいの頃はこの家に遊びにくると縁側でよくお気に入りの猫と一緒に遊ばせていました。
あれから30年以上経って介護のために戻ってきましたが、地域猫はまだ一定数いるようです。特にわが家を含めた近隣数軒は庭の木や草花が多いので、猫にとっては格好の遊び場なのでしょう。

その中で、1匹の猫が無性に気になって仕方がなくなってきたのです。淡いキャメルのグラデーションがかったトラ柄の猫でした。
私は勝手にその猫をチビと呼びました。

チビはとんでもなく甘え上手で、ご飯をねだるときは足元にすりすりしてきたり、甘い声で鳴いてきます。
ある時などはごはんをあげてからゴミ捨て場に出かけると、チビはわざわざ食事を中断して帰りを待ってくれていました。「アリガト」の意思表示なのか、ゴロンと寝そべってクネクネと白いお腹を見せてきます。そうして愛嬌をふりまいて、また食事に戻っていきます。しっかり礼を尽くす猫だなあと、一層可愛く思えました。

ほかの地域猫は認識できるだけでも3~4匹はいました。実はみんなチビの彼氏。チビはオスにも人気者らしく、ローテーションで私に彼氏たちを紹介してくれました。
毛並みの柄も性格も、それぞれ違うのだけど、みんなチビの後ろに従っています。チビは窓際でおねだりの「ミャーミャー」をやって、私がごはんをあげると最初だけ食べて、あとは同伴したオスにあげてしまいます。「このかわい子ちゃんについていけばごはんがもらえるらしいぞ!」とでも猫界で噂になっているのかしら。

年が明けた頃、チビのお腹が少しふっくらとしていることに気がついたんです。
チビは活発なおてんば猫なのに、以前のように木登りしたり、お腹を見せるポーズをしなくなっていました。
自由でたくましく生きるチビに、「人間があまり世話を焼きすぎてもいけない」と、心に留めながらもダンボール箱にタオルを敷いたベッドを作ってやりました。

そして4月のある朝、赤ちゃん猫の鳴き声が聞こえました。そっとチビのいるベッドを覗くと白やキャメルの小さな小さな赤ちゃんがモゾモゾとお腹あたりで動いていました。
4匹の子猫のあどけない動き、表情、鳴き声。本当に愛くるしい。孫が生まれたような気分です。母もとても喜んでいました。

面白いのは4匹の性格が全然違うということ。

真っ白な毛並みの「チロ」は食い意地が張っていて、真っ先に母親のチビにあげたカリカリのキャットフードに手を伸ばしました。
唯一の女の子、「ボルダ」はお転婆で、登るのが大好き。木や屋根や網戸によじ登ろうといつも必死。「ミルティー」は一番上品で、顔立ちも端正。ご近所さんからも「家猫みたいね」と可愛がられています。チビと毛並みがそっくりな「ミニ」。すごく頭が良くて、こちらの気持ちがわかるみたい。ごはんの時は「ボクには特別な席をくれるでしょ?」って雰囲気で膝の上に乗ってきます。そんなふうに私が子どもたちを可愛がるのを、チビはよく観察していました。

だんだんとチビは私があげたごはんを食べなくなっていきました。私としては、子猫たちにお乳をあげるチビのためのごはんを用意しているつもりでした。
でも食べるふりをして食べ方の手本を子どもたちに見せるだけで、チビは一向に食べません。全部子どもたちに食べさせるのです。
きっとどこか体の具合が悪くて、自分でわかっていたんじゃないかなと思います。

ある時、じっと私の顔を見つめてきました。「この子たちをよろしくお願いします」、そう言われた気がしました。翌日には姿を消して、もう二度と現れませんでした。4匹が生まれた年の秋でした。

それでこの子たちを育てなきゃいけないな、という覚悟ができました。どうしても家の中で飼うことはできないけれど、冬を越せるように発泡スチロールで寝床を作ってやったり、金魚鉢に水を貯めておいていつでも飲めるようにしたり。うちの庭で元気いっぱい遊びまわる姿を見ると、しあわせを感じます。
春は蝶を追いかけて、暑い夏はコンクリートで身体を伸ばす。秋は集めた落ち葉にダイブし、冬は身体を寄せ合う。
チビが過ごしたこの庭で、チビの子猫たちがのびのびと過ごすのを、今日も私は楽しんでいます。

執筆・写真 ささきりょーこ

ささきりょーこ

広告制作会社のプロデューサー・フリーライター

1989年、神奈川県横浜市生まれ。
経理・総務などのバックオフィスを経て、
現在は、広告制作会社のプロデューサーと
フリーライターでキャリアをパラレルに展開中。
持ち前のフットワークの軽さとコミュ力で
気になった人を初対面でも飲みに誘う。
家系的猫好き。好きな猫種はロシアンブルー。
好きな児童書は『黒ねこサンゴロウ』シリーズ。

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