店主 2023.11.27 オーガニックで優しい猫の聖地
~世界中の猫さんたちが幸せでありますように~
群馬県桐生市の本町通りから1本入った閑静な住宅街に佇む『須藤商店』。自然食品と自然酒類の専門店・マクロビオティック料理教室と記された天然木づくりのお店を営んでいる須藤ひで子さんは、ただの猫好きではありません。個性豊かで愛くるしい看板猫なる5匹を壮絶な境遇から救い、大きな愛を惜しみなく与え、寄り添い続けています。
ちびたさん
アタシの名はね、「ちびたさん」て云うの。ここへ迷い込んできたのは2011年3月11日。そう、地面が揺れてとっても気持ち悪い日だったわ。あれから12年半が経ったわ。ひで子お母さんが云うには、アタシは15歳くらいだって。名は「ちびたさん」なんだけど、立派に赤ちゃんも生んだことのある往年の美魔猫なのよ。ひで子お母さんのところに来た時には、こんなアタシもガイコツみたいにやせ細っていて・・笑。
あぁ、思い出すには、あまりに遠い昔過ぎるけど、とにかくあの頃は着の身着のまま‥毎日お腹が空いていて、何のために生きているのかもよく分からなかったわ。
お母さんのところでお世話になることになってね、とっても高級そうな缶詰・・えーっと、モンプ〇?そうそう、それ!アタシはね、そのスープを大切に大切に舐めて、それはもう…この世のものとは思えないほど幸せな気持ちになったことを覚えてるわ。
それで満足しちゃって、お母さんはお外にいる猫たちにその残った具を食べさせていたんですってよ。幸せっていうのは、こんな風に優しくて温かで、ふんわりとした何かに包まれているみたいで、アタシにはこれが「確かなもの」かを確かめる術もなくて・・。でもお母さんの、いつも優しく微笑みかけてくれるその瞳が、この幸せを「確かなもの」だと安心させてくれたの。ここへ来た時、アタシのお腹には赤ちゃんがいて、お母さんのベッドの上で赤ちゃんを産んだのよ。お母さんはとっても驚いたけど、1度でいいから赤ちゃんが欲しいと神さまにずっとお祈りしていたから、アタシの赤ちゃんを本当に喜んで受け入れてくれたの。その後、避妊手術も受けたけど、痛みなんて感じなかったわ。それくらい幸せな毎日だった。
今はね、アタシの他にも若くて元気な子たちがたくさんいて、とっても賑やかなのよ。そうね、皆んなを紹介するわね。
夢金コンビ
夢ちゃん・金ちゃんは確か・・茨城から来たのよね。
5年ほど前になるかしらね、SNSで小さな夢ちゃんを見つけたお母さんは、そのあまりの可愛さに心奪われ、すぐ連絡を取ったの。私も写真を見せてもらったけど、そうね~、まぁまぁ可愛い感じだったかしらね?ただね、この仔は両後ろ足が無くて、可哀そうだったわ。おまけに金ちゃんという子も一緒に引き受けることになって・・「お母さん、大丈夫?」ってアタシも心配で何度も確かめたけど、お母さんは「大丈夫よ!」と、アタシを心の底から安心させてくれたあの愛情深い瞳で云うんですもの、アタシもお母さんに協力するって決めたのよ。これが「チーム茨城」夢金コンビの仲間入りだったわ。兄弟というわけじゃないけど、いつも一緒なの。
金ちゃんは虐待されていたのかしらね~?
当時はお母さんをよく試してたわね。アタシも放浪しながら辛い経験をたくさんしたから、よく分かるわ。だけど、ここにある幸せや優しさは確かなものだから、お母さんを試すようなことはしないでって、ちびっ子だった金ちゃんに何度も話したわ。
だけど、まだ子どもで臆病だったもの、幸せだってすぐには受け入れられなくて‥物は壊すし、カーテンも2日と持たなかったわ・・でもね、お母さんはどんな風に試されても怯まないどころか、根気よく金ちゃんに付き合ってあげていたわ。
小さな心に負った傷を埋めるのは、それ以上の愛しかないの。
そして自然界というのは、愛されることを知ると、その愛を分け与えるようにできているのかも知れないわね。金ちゃんは受けた愛情をもっと大きな愛に換えて、両足のない夢ちゃんに寄り添っているわ。
保護されたばかりの当時の夢ちゃんは、生まれて間もない小さな身体で両足を失っていたの。誰かが意図的にその脚を切断して捨てられて、カラスの餌食となるところを助けられたのね。
運の強い仔よ。首を長くして待ち焦がれ、迎えられた夢ちゃんは、ここで与えられる溢れんばかりの愛情をエネルギーに変え、とにかく元気なのよ(笑) 後ろ足がないなんて感じさせないほど動き回るし、まぁ何といってもこの仔は、愛されキャラだってことを自分でもよく知ってるわ。彼はいつだって「アイドル夢ちゃん」なの。
それぞれが心と身体に大きな痛みを抱えていた「夢金コンビ」だけど、お母さんの大きな愛は、その痛みを丸ごと受け止めて、まるで無垢な天真爛漫コンビへと育て上げたの。
さくちゃん
多頭飼い崩壊っていうの?そんな劣悪な環境から、お母さんの友だちが保護して、ここへやってきたのが「さくちゃん」。今年の春、3歳を迎えたのよ。
コロナ禍真っただ中の2021年8月24日、当時1歳半くらいだったさくちゃんが、突然いなくなったの。お母さんがちょっと目を離している間に、鍵の開いたサッシの隙間から外へ抜け出てしまったのよ。お母さんはもう泣きそうになって探し回ったけど、どこにもいなくて、翌日になっても帰ってこないの。心配で堪らないお母さんは、さくちゃんの捜索チラシを配ったり、新聞で呼びかけたりしたけど、何の連絡もなくて。神社へお詣りしたり、ご先祖様への願掛けは100日のお墓掃除と墓参を決意し、暑い日も雨の日も毎日お墓へ通っていたわ。
ほどなく予想もしていないところから、さくちゃんではないかという情報があり、お母さんは飛んで行ったの。鬱蒼とした草むらの中で見つけられたのは、翌9月17日のこと。お母さんに抱き抱えられて帰ってきたさくちゃんは、信じられないくらい瘦せ細り、真っ黒に薄汚れていて、普通ならさくちゃんだなんて誰も気づかないわ。でもね、お母さんの大きな愛が彼を見つけ出したのよ!その後も、お母さんはお礼も兼ねて、お墓掃除とお参りを100日間しっかりと務め上げたのよ。お母さんはいつも「世界中の猫さんたちが幸せでありますように」って、お祈りしているのをアタシはちゃんと知ってる。さくちゃんの1カ月の放浪生活の真相は未だに謎だけど・・
麦ちゃん
桐生の山中、道の真ん中でカラスが鋭いくちばしで足先をついばんでいる、動くことも叶わない小さな赤ちゃんだった仔が麦ちゃんね。さくちゃんを保護したお母さんの友だちが動物病院へ連れて行ってくれたの。
事情を聞いたお母さんは、ためらうことなくこの仔を受け入れると決めて、治療が終わる日を待ったのよ。麦ちゃんもよく頑張ったわね。この世に生を受けてまもなく母猫の愛情もそこそこに、壮絶な苦痛を強いられ、危うく自然界の生贄になったかも知れない麦ちゃんは、こうして我が家の家族となったのよ。アタシも放浪生活の時に何回か子どもを産んだけど、野良にとっては愛だけじゃ子育てなんてできないほど、自然界は厳しいの。アタシの仔ももしかしたら‥と思うとね、たまらなく愛おしくなるのよ。
時に看板猫、時にホスト、笑顔が生き甲斐!
アタシたちのことを放っておけない優しいお母さんのこと‥みんな大好きなの。お母さんを喜ばせたくて、お店の入り口でお客さまを招き入れたり、店内では接客だってするのよ。お仕事で疲れていても、お母さんが笑顔で寛いでくれることが、アタシたちの生き甲斐なのよ。
自然食品と雑貨と思いやりを・・
無添加などで生体や環境に配慮された食品や雑貨、自然化粧品類が豊富に揃えられている「須藤商店」。
江戸時代にお米や燃料・日用品を販売する店として創業した代々続く老舗を、須藤ひで子さんが受け継ぎ、マクロビなどを取り入れた食と健康講座、料理教室などもできるサロンを併設した店舗として2019年7月にリニューアルオープン。
店舗内に並ぶ多数の商品や、サロンでの定期的な講座を通して専門性の高い知識だけでなく、須藤さんのすべての「命」に対する思いやりや愛が、そこに添えられていることを感じました。
自宅兼店舗の外では、親猫と3匹の仔猫にもゴハンを与え、5匹の家族と変わらぬ愛情を注いでいます。猫たちにとって、ここはきっと「聖地」なのかもしれません。とにかく猫たちが集まってきます。そんな猫たちを、この世でたった一つしかない「命」として、どんな時にも笑って受け入れ、慈しむ気持ちを大切にする須藤さんの毎日が尊く思えてなりません。
インタビューイー:須藤ひで子 取材・執筆:吉村巳之
【須藤商店】
代表:須藤ひで子さん
〒376-0053 群馬県桐生市東久方町2丁目6-21
℡:0277-44-5733
(営業時間:10:00~18:00 日・月曜日定休)
執筆 吉村 巳之
ヘア & メイクアップ、着付け、ウェディング、撮影/ステージ用ヘアメイク、企業/各種コミュニティ向けイメージアップ講座、ホリスティックビューティー講座、たかさき能/狂言を観る会実行委員会、子宮頸がん予防啓発高崎美スタイルマラソン実行委員会など各分野で活動中