猫と人。繋がるものがたり ネコット

フリーランス 2023.12.06 地域猫との共生の実現に向けて・・

飼い主のいない地域猫・街ねこを問題視し、その解決に尽力するボランティアの数は相当数ですが、保護をして里親を見つけるも、増える猫の数は後を絶ちません。
しかしながら、ここ20年来、ボランティアさんの努力に頼っているのが実情とはいえ、各地で強化されている〈TNR〉によって殺処分される猫の数は確実に減少傾向にあります。

〈TNR〉とはTrap/Neuter/Returnの略で、捕まえて・手術(避妊・去勢)して・元の場所に帰すことで、その一代限りの命をみんなで見守ります。
手術した猫ちゃんの耳には、V字に切り込みを入れて、管理されている猫ちゃんであるという目印にします。殺処分される猫の7~8割が生まれて間もない仔猫であることから、「殺処分されるために生まれてくる小さな命」をなくすために、行政やNPO団体が動物病院とタイアップしながらこうした取組みを推進しています。

このように地域へと返された猫たちが、暮らす人々と「共生」することを目指している篠崎あゆみさん。
ご自身も3匹の保護猫と暮らしています。

TNRに向けて保護された猫

〈たまこ〉との出逢い

我が家に来た日のたまこ

初めてたまこを目撃したのは、2019年11月4日。とある催しに向かう途中の信号待ち、交差点の向こう側に金色のふわふわとした埃?のような塊を目にしたものの、そのまま通り過ぎ、目的地へと車を走らせた。が、心の中に沸き立つざわめきを拭い去れないまま、時間だけが経過した。
〈ざわめき〉の原因‥あれは埃ではなく「仔猫」だったのでは‥という疑念だった。

この夏4歳の猫〈おちゃ〉を亡くしたばかりでペットロスになっていた私は、もう猫を保護しないと決めていたものの、あの交差点にいたのが仔猫だったとしたら‥車に引かれてしまったのではないかと思うと、居ても立ってもいられず、再びその場所へと向かっていた。
その交差点に、もう「埃の塊」がないことを確認するとさらに気持ちは焦る。
辺りを探すと、交差点の角のプランターにうずくまる仔猫の姿が目に入った。
やはり仔猫だった!抱き上げてみると、シャム猫だった。きっと飼い猫だろうと思い、近くの警察に届け出をし、取得物としてしばらく預かることになった。

しかし、再び来るであろう別れの日のことを考えると、この仔になるべく感情移入しないよう、〈仮の名前〉もダサい名前にと考え、〈たまこ〉と呼ぶことに決めた。
結局飼い主は現れなかった。ならば、「ティアラ」とか「プリンセス」とか、品格あるシャム猫に相応しいキラめくような名前にすれば良かったのだけれど、当時は自分の気持ちをそんな風に抑えることしかできなかった。

2カ月の預かり期間を経た頃には、当然のように彼女の存在はかけがえのないものになっていた。たまこはとにかく頭の良い猫で、私の云うことをまるで人間の子のようにきちんと理解した。自分が「たまこ」だという事もしっかりと認識してしまったおかげで、今さら名前を変えるワケにもいかず…そのまま今に至っている。

たまこの命を繋ぎたい

たまこと暮らす日々は、失った前猫〈おちゃ〉への哀しみを埋めてくれた。
心を固く閉ざしていた私は、健気なたまこの存在によって少しずつ明るさと笑顔を取り戻すことができた。本来なら、時期がくれば〈避妊手術〉をするところだけど、「こんなに賢く優れたたまこの命を、私の一存で絶やしてしまって良いのだろうか?」と、無性に気がとがめてならなかった。ブリーダーさんや獣医さんに声をかけ、お婿さん探しを始めたが、そう簡単にいくものではなかった。

ベランダで遊ぶたまこ

たまこ脱走!

たまこが居ない!そんな事件が起きたのは、住まいである建物の外壁工事中のこと。
ベランダの外に組まれた足場をつたい、たまこは部屋からスルリと脱走したのだ。辺りを隈なく探したが、そもそも好奇心の旺盛な猫がそう易々と見つけられるワケもなく…困り果てて、ついには近所に捕獲器を仕掛けることにした。この〈捕獲器〉を借りるために紹介いただいたのが県内のとある保護猫団体で、これをきっかけに私は保護猫活動のお手伝いをすることになった。

行方不明になった当のたまこは、しばらくしてお腹に新しい生命を宿して帰ってきた。
やがて迎えたお産は2日がかりの難産。たまこは4匹の赤ちゃんを生んだが、元気だったのは最初に生まれた2匹だけ。丸1日空けて翌日に生まれた残りの2匹は、残念ながら息絶えていた。

たまこの子育て

2023年4月に生まれたこの2匹の仔猫たちを、たまこはとても大切に育てていた。
仔猫を喰わえては、たんすの裏側や、部屋のあちこちに隠した。人目に付かない静かで落ち着ける場所の確保に、彼女は神経質なくらい気を遣った。生まれたばかりの我が子を守る母猫としては、かなりの優等生ママだった。
思い返せば、たまこ自身はどんな事情があったにせよ、まだ世の中のことがよく分からない仔猫の時に、車の往来の激しい交差点の片隅でうずくまっていたのだから、自分の身の上を考えれば、大切に育てたくなる気持ちも分からなくはない。

それにしても誰が教えたわけでもないのに、初めてのお産然り、子育ても本当に上手くやれるものだと感心するばかりだ。

共生するということ

たまこの生んだ2匹の男の子たちに、それぞれ「まめ」・「ふく」と名付け、彼らは私たちの暮らしの中に加わることとなった。元気な仔猫たちとの生活は、早朝の運動会に始まり、家中のものが倒され、壊される。洗濯物は引きずられる。それはもう毎日が賑やかになった。

まめとふく

確かに大変でないと云えば嘘になるけど、今までのたまこには一人ぼっちの時間が多かった。出かけることに罪悪感を持つようになっていた私にとって、帰宅した時の荒らされた部屋の状況は、こんなに夢中になってじゃれ合ったり、駆け回ったりして、たまこは今日も楽しく遊べて良かったと、むしろ幸せな気持ちにさせてもらえた。

角度や視点を少し変えるだけで、本来なら疲れて帰ってからの部屋の片づけは苦痛になり兼ねないが、慈しむ気持ちひとつで罪悪感は一転する。

あの時に救った小さな命に、いつしか私の心は数知れず救われていることに気づかされる。

「国の偉大さ、道徳的発展の程度は、その国における動物の扱い方でわかる」(マハトマ・ガンジー)

これは地域であっても、ひとつの家庭の中であっても同じだと云える。
部屋の中でのこんな光景は、所属団体〈ねこまる〉の目指す「共生」の姿そのもの。〈知能の高い方が折り合いをつける〉ことでしか「共生」は成り立たないと思う。

地域猫との共生

先に記した地域猫たちが、その一代の命を全うするためにTNRだけすれば、問題がすべて解決するわけではない。庭先での排泄物や縄張りのための匂いづけなどは特に深刻で、猫たちに嫌がらせをする人もいる。荒らされたように遊び回った形跡が残る部屋の中を、どこかの庭先や地域の様々な場所に置き換えて考えることができそうだ。

TNRのため捕獲された地域猫

自然が教えてくれること

私はフラワーアレンジメント講師の傍ら、ボランティアで自然保護観察官という活動をしている。
主に山歩きなどをしながら、植物調査や野生生物の観察を行ない、自然環境保護に協力する。大自然の営みの中に居ると、その猛威に人間の無力さを思い知らされることも多いけれど、見たこともないような美しい景色や偉大さで心躍らせてくれることはそれ以上にある。
ただそこに佇むだけの草花が駆け引きもなく、私たちを優しい気持ちにさせてくれるように、動植物に対しての私たちもそうであり続けたい。

インタビューイー:篠崎あゆみ/・取材・執筆:吉村巳之

篠崎あゆみ

フラワーアレンジメント講師・自然保護観察官・地域ねこ共生活動・ミセスオブザイヤー2023ジャパンファイナリスト

執筆 吉村 巳之

ヘア & メイクアップ、着付け、ウェディング、撮影/ステージ用ヘアメイク、企業/各種コミュニティ向けイメージアップ講座、ホリスティックビューティー講座、たかさき能/狂言を観る会実行委員会、子宮頸がん予防啓発高崎美スタイルマラソン実行委員会など各分野で活動中

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