猫と人。繋がるものがたり ネコット

メディア編集長 2023.05.29 ルイが残してくれたもの

ルイとシャロンは最高なコンビ

あの日は爽やかな秋晴れの朝でした。私はその日の事は決して忘れない。
シャロンとルイが我が家に来て、仲良く暮らして1年が経としていた頃です。
この二匹の出会いについては前章でお話ししましたね。よかったらまた読んでみてください。
前章「シャロンが我が家にやってきた日」

そう…あれから1年が経っていたのです。
この1年、私は2匹の猫と暮らしていました。私が二匹に対してお世話をしたというより、仲睦まじい二匹の仕草や行動を見てどんなに癒されたことか…
暖か~い気持ちになったり、なぜか泣けてきたり、ある時は感動したり…私は二匹のおかげで感性がちょっぴり豊かになったかもしれません。

ルイはいつもシャロンの事が気になって仕方がない様子。
大好きなチュールをもらうときでさえ、
「大丈夫だよ、ちゃんともらえるよ」ってシャロンに言うのです。写真のようにね。
待たせる仕草をするのですよ。人間のお母さんみたいに。

ルイはお兄ちゃんなのに、こんなに母性を持っているのかと度々驚かされていました。
それとも恋人?
猫にも相性というのがあるのですね。

毎日毎日がラブラブです。

あらあら ママが恥ずかしくなっちゃうわ
こんなに仲良しの兄妹に、いつもびっくりすることも度々でした。

お行儀のよい2匹です。
これもルイが教えているのです。

この日は、とっても大事な日。
シャロンを神社から連れ帰ってくれた最初のママ(息子の彼女)とパパ(息子)が入籍した帰りに私のところに寄ってくれるというので、みんなでお食事する日です。
並んでちゃんと参加する気満々です。

「これからお料理がいっぱい並ぶよ
シャロン、テーブルの上に乗っちゃだめだよ」
ルイはシャロンに教えています。多分ね 笑

この頃の私、自身の仕事の進退を考えていた時でした。
今までの仕事の整理やら今後の事やら、そして現在進行中の仕事やらで、頭と体はいっぱいいっぱい状態。
疲れて仕事から帰ると、二匹が出迎えてくれました。
二匹を抱きしめて泣きながら
「一緒にいてくれてありがとう」って言う日もありました。
シャロンはそんな私とは対照的、毎日が愉しくて仕方がない様子。
部屋中を駆け回って遊んでいます。私にも飛びついて甘えてきます。
でもルイは1年たってもどこか遠慮しているのかな…。シャロンが、なでなで可愛がられる様子を遠目で見ている感じ。
私の事、まだ完全にココロ許してくれてないのかしら…
そんなことを感じることもしばしばで。
それでも二匹がこんなに楽しそうに幸せそうにしているのだものよしとする。
それだけで私は暖かくも安らかな気持ちになっていました。

秋晴れの朝、忘れられない一日

あの秋晴れの日までは…。
あの日のことを書かねばなりませんね。
私はベランダから遠くに山々が見える地方都市ならではの風景が大好きでした。
その日も、いつもと変わらないベランダからの景色。
さわやかな秋の朝でした。

前日まで友達が1週間ほど泊まっていたので、ベランダに出てお布団や洗濯物を干していました。
でも少し気になっていることが頭をかすめていました。
ここ数日、ルイの食欲が落ちていること。
夕べも友達と話していました。
「ルイちゃん、ごはんあまりリ食べてないね」
「そうだね 元気ない感じするよね」と。

洗濯物を干している時に、ふとルイを見るとルイが動かずじっとしている。
シャロンと追いかけっこもしない。
「ルイどうしたの?」
何だかお顔がげっそりしているではありませんか
私は急に心配になって、嫁に電話で相談しました。
「お母さん、一応、クリニックに連れて行ってくれますか?」
「もちろんよ、あのクリニック(シャロンを保護した時にお世話になった)でいいわよね」。
あわててクリニックに連れていくことにしました。
キャリーバックに入るルイをシャロンは遠目に見ています。

ルイを車に乗せて向かう時も、キャリーバッグの中で静かにしています。
おとなし過ぎる!
気持ちがざわざわしてきました。
なんだかどうしようもない不安になりました。
猫を飼ったことがない私は猫の病気の知識などまったくないのです。
まさか猫が病気になるの?って本気に思っているくらいでした。

ルイは息子夫婦から預かっている大切な子なのに、何かあれば大変だわ

クリニックは近所でも評判の病院で、シャロンを神社から保護し、すぐに連れてきたときに親切に対応してくれたドクターがいるところです。

猫好きには、その人が猫が好きかどうかはすぐわかるものね
この病院なら大丈夫
やはり人気クリニックはペット連れの方がいっぱいだわ
1時間くらいは待ったかしら…

先生は診察台の上のルイにやさしく触りながら、私から色いろいろ質問します。
ここ1週間くらい食欲がないこと
シャロンとじゃれあわないこと
最近いつも同じ場所でじっとしていることが多いこと

そんな話を聞いた先生は、少し顔を曇らせて
「私の診断が間違いないかどうかを検査してもよいですか?」と。
「もちろんです。お願いします」

そう言って先生に託すことにして、いったん家に戻りました。
そして数時間後、再びクリニックに向かい、ルイと再会しました。
先生の診断は
「うん、やっぱり間違いありません。 悪性リンパ腫ですね。
手術しても、無理かな…
どうしようもない猫の病気です」というのです。

「えッ どうしようもないって、死んじゃうのですか? どのくらいで?」
「う~ん、何も食べれなくなるから1か月位かな」

どうしようもない猫の病気?
悪性リンパ腫
あと1か月
そんな馬鹿な
何もしてあげられないというの?
ただ黙ってやせ細っていくのをみているだけなの…

栄養剤と吐き気止めだけを処置していただき、ルイを連れて家に戻りました。
そして息子と嫁に先生から聞いてきたことをすべて話したのです。
それを聞いた嫁は、その夜東京から駆けつけてくれました。
当時私は高崎に住んでいましたから。
そこから私と嫁の1か月のルイの看病生活が始まりました。
私も仕事があるので、ずっと付き添いもできないのを察して、来てくれたのです。
嫁は翌日、いろんなものを買い出しに行ってくれました。
猫のご飯をすりつぶすためのスリコギやのどに流し込むためのチューブが付いた容器、シャロンのものとは別にするための食器等。
そして、毎日おしっこ・便の回数、ご飯を食べた分量と時間等を書きこみ2人で共有するためにノートを付け始めました。

それでもこのまま何もしないことに耐えられず、セカンドオピニオンとして息子の知り合いのクリニックへ連れて行きました。
すると、
「あと半年くらいなら命を伸ばすことができます。」という話を聞きました。
でもそれ以上は難しいと言う事。
それとかなりの治療費がかかると言う事も。

息子はいくらかかってもルイの治療をすると言い張ります。でも毎日ルイの様子を見ている私と嫁の意見は違いました。
こんな状態ではあまりにも可哀そうすぎる。それを半年なんてむごすぎると。
今、出来ることを最大限してあげて、毎日寄り添って看病して見守りたい。
結局私たちは、そういう答えを出しました。

それからルイはどんどん食べなくなり、クリニックでの栄養剤も効果がみられず、診断結果からちょうど1か月後に息を引き取りました。
不思議なことですが、ずっと寝たきりだった数日でしたが、最後の日、突然むくっと立ち上がって、お水を一人で飲んだのです。そして隣のお皿のご飯を一人で食べているではありませんか!カリカリッと。信じられない光景でした。

私は、
「ルイ、 元気になったの? まだ生きれる?」って声をかけました。
ルイは何も言わずに自分の寝る場所によたよた戻り
最後、声にならない声を上げてこと切れました。

シャロンは隣の部屋から見ていました。近づいては来ません。

ルイお疲れ様
辛かったね
頑張ったね
ありがとね
ゆっくり寝て頂戴ね

それから後のことは、覚えてるような忘れたいような…
ペットのお寺さんで供養して荼毘に付して骨壺に入って、しばらくの間、私の部屋で暮らしました。

ルイと眺めた空は忘れないけど…幸せになる

あの日から数か月、ひとりになったシャロンは、空を見ることが多くなりました。
ずっと動かず空を見ていました。
ルイと交信しているのだと思いました。
いつも二人で夕暮れになるとこうして並んで眺めていましたから。

あの時、朝も昼も夜も、ずっとひとりで眺めていました。

ルイは私に教えてくれました。
ルイは大好きなシャロンの事をずっと見守り大事にしていました。
愛って本当に何も求めず、ひたすらに相手を思うことなのだって
そしてルイは私に気づかせくれたことがあります。
私の中に潜んでいた感情を引っ張り出してくれたのです。
私ってこんなに優しかった?
私ってこんなに涙もろかった?
私ってこんなに寂しがり屋だった?
自分でも信じられないくらい、自分の湧き出る感情に驚きました。
感情を出すことが、これほど自分に優しくなれるものだと言う事を改めて知りました。
それまで頑張りすぎて、走りぬいて、疲れ切っていた私の人生でしたけど、その時、始めて気が付いたのです。自分に優しく安らかな時間が必要なのだということ。
猫に向き合うことは自分に向かう時間だったのかもしれません。

ルイはシャロンに何も求めずひたすら愛を注いでいました。

私は猫たちによって、自分と向き合うことができて、素直に自分の感情を受け入れました。

ありがとう
ルイ

必ずシャロンは私と一緒に幸せになるからね
安心して虹の橋を渡ってね

あれから6年、やっとルイがいなくなった寂しさから抜け出しています。
シャロンと一緒に生きる事が、あたり前の生活として受け入れられるようになりました。

今もシャロンは外を眺めるのが好きです。
でもルイと交信しているのではなく、新しくお友達になった鳥さんが来るのを待っているような気がします。
私も東京でシャロンと新たな暮らしを楽しんでいます。

執筆 土屋和子/写真提供 土屋和子

土屋和子

「猫と人。繋がる物語」編集長。

元月刊パリッシュ代表&編集長。62歳までは経営者。その後はフリーランスとして現在は事業プロデユース・執筆・プロモーション制作(パンフレット・HP)等を手掛ける。フリーランスの仲間たちを繋ぐサイト「ツキヒヨリ」https://tuki-hiyori.com/を運営。
都心で黒猫シャロンと暮らしている。

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